女性科学研究者の環境改善に関する懇談会 Japan Association for the Improvement of Conditions of Women Scientists

カテゴリー: 会長からのメッセージ

2015年から2020年まで6年間のJAICOWSの活動総括と、2020年の展望

2015年から2020年まで6年間のJAICOWSの活動総括と、2020年の展望

JAICOWS会長 羽場久美子

 

 

 

2015年1月の総会から原ひろ子先生より会長を引き継いでから足掛け6年になる。

2020年10月より、新体制として白波瀬佐和子会長、伊藤美千穂副会長、海妻径子事務局長、栗田禎子企画委員長に新しく引き継いで頂くことになり、大変嬉しくありがたく思っている。

この間の2期6年を振り返り、1)世界情勢、2)学術会議の動き、3)JAICOWSの活動をまとめ、JAICOWSの研究会の成功や非常勤のアンケートの成果も紹介して総括としたい。

1)世界ジェンダー情勢と日本 2015年から2020年までの世界の中の日本のジェンダー状況は決して順調とは言えなかった。毎年12月に報告される世界経済フォーラム(WEF)のジェンダー不平等状況を示す「世界ジェンダー・ギャップ指数2019年」によると、2015101位、2016年111位、2017年114位と毎年順位を落とし、2018年110位と若干回復したものの、2019年は世界153カ国中121位と過去最低となった。1位から5位は、アイスランド、ノルウェー、フィンランド、スウェーデン、ニカラグア。日本はOECD先進国の中で最低であるばかりか、中国106位、韓国108位と、世界の中でも後ろに30カ国余しかない状況となった。先日東大のジェンダー会議では教授に言葉のハラスメントを受けたイスラムの院生から、「日本の性差別はイスラム圏よりもひどい」という言葉も聞いた。何が問題か?上野さんは「ごめん」と言われた。いや問題は日本の政治と社会。2020年は何としても挽回したい。まずは自分の周りの女性、ジェンダーの人権を1つ1つ保護していくことから、であろう。

2)学術会議ではこの間順調に202030という基準を前倒し達成し既に24期に女性会員3割、連携会員28%を達成した。25期もこれを上回る成果を期待している。男女共同参画を学会レベルで実現するためのアンケートや様々のシンポジウム、会長副会長の4人の内2名が女性という状況が2期続き、学術会議でのジェンダー状況はかなり改善された。今後は大学及び企業さらに政治における女性拡大であろう。若手により、女性会長も目指されればありがたい。

3)JAICOWSでは、島田先生から原先生まで脈々と受け継がれてきた伝統ある学術会議の女性科学研究者の環境を改善する動きをどれだけ実現できたかは心もとない。しかし田原淳子先生という優れた事務局長と共に、90人のJAICOWS会員から学術会議の会員にNews Letterを配布し会員になって頂く広報を募る中で、30人以上127人まで新しい会員が入って下さったのは嬉しいことであった。海妻先生たちと共に学術会議の講演会で女性の貧困:非常勤や若手研究者の問題について何度もシンポを持ったり、非常勤の雇止めで早稲田や日大で大きな問題が起こる中、「非常勤講師緊急アンケート」を取り、袖井先生・直井先生のご協力の下、700人を超える切々たるアンケートが集まった。それは今年9月にJAICOWSの成果として『非常勤講師はいま―コロナ時代の非常勤講師(仮)』のブックレットとして出版予定である。ありがとうございました。

 

講演会についても、大学の授業と合わせ、辻村みよ子先生、廣瀬真理子先生、大澤真理先生、上野千鶴子先生、浅倉むつ子先生など錚々たる先生方に、最先端のジェンダー問題について語って頂いた。また田原先生のアレンジの下オリンピックとジェンダーのシンポも時宜を得て公開した。これらは時に300人を超える参加から少人数の白熱した論議まで、多角的にジェンダー問題を考えなおすきっかけとなった。講師の皆様には心より感謝する。2020年6月には伊藤美千穂先生、海妻径子先生の初のオンライン講演により100名を超える方々が参加して下さり活発な議論が交わされた。全国を結んだオンライン講演は今後も続けていきたい。

皆様のご講演もぜひお願いします!

4)2020年の抱負としては、コロナ禍の中、高齢者・弱者・女性を大切にし、若手会員を増やし全国の会員の方々のご協力によりさらに会を活性化させていきたい。

白波瀬先生他の新執行部のリードでさらに新しい会員が増え、伊藤・海妻・栗田諸先生の下で京都や大阪、東北、千葉にも会を広げますます活発な活動を期待したい。ぜひ今後もJAICOWSにご協力の程、宜しくお願い致します。2期6年間、皆様には本当にお世話になり、誠にありがとうございました。

JAICOWSの皆様とともに、日本の政治・経済・科学・社会で女性が輝く未来を実現していきましょう! 皆様のますますのご発展を、心よりお祈りいたします。

 

2019 年、過去・現在・未来における JAICOWS の活動に向けて

 JAICOWS の創設者のひとりでいらした前会長(現顧問)の原ひろ子先生のメッセージにありますよう に、JAICOWS 設立のきっかけおよび名前の由来は、今から 24 年 7 か月前、1994 年(平成 6 年)5 月に 開催された日本学術会議第 15 期第 118 回総会において、「女性科学研究者の環境改善の緊急性について(声 明)」が採択され、女性研究者の重要性が指摘され、それが当時の新聞にも報道されたことによるものです。

しかし 15 期には 4 人いた女性会員が、16 期には島田淳子先生お一人になられる中、13 期から 15 期に 会員でいらした一番ヶ瀬先生が文化人類学研連委員原ひろ子先生にお声がけされ、JAICOWS を結成し、 会員の島田先生をサポートし、「長期的に日本学術会議、ひいては日本社会全体における女性研究者の地位 向上に尽力しましょう」という観点から、24 年前の 1995 年 1 月 5 日に設立総会が開催され、以後日本学 術会議の前・現会員と研連委員(現在の連携会員)有志で JAICOWS が発足しました。(JAICOWS とは、 女性科学研究者の環境改善に関する懇談会 Japan Association for the Improvement of Conditions of Women の略語です)

以後、JAICOWS は、多くの場合、総会を 1 月、研究会やシンポジウムなどを 5 月、ないし秋など年 2回から 3 回の会合を積み重ね、女子トイレのない日本学術会議にトイレを設置するところから始まり、女 性研究者の環境改善に向けて多くのシンポジウムを開催し、書籍刊行を行ってきました。その代表的なも のに、『女性科学研究者の可能性を探る』JAICOWS 編、ドメス出版、1996、『男女共同参画社会:キーワ ードはジェンダー』学術会議叢書 3 日本学術協力財団、2001、『ジェンダー問題と学術研究』原ひろ子ほか、 ドメス出版、2004 などがあります。

この 10 年間で男女共同参画の活動も発展し、会員・連携会員の数は段階的に年を追って増え、2017 年10 月からの日本学術会議第 24 期では、会員 206 名中女性会員 68 名 33.0%、連携会員 1879 名中女性連携 会員 541 名、28.7%、総計 609 名と飛躍的発展を遂げました。さらに会長・副会長 4 名のうち 2 人が女性 と、政策決定においても重要な役割を果たしています。学術会議の女性会員・連携会員各氏のご尽力、各 部署の方々のご活躍に、心から感謝を申し上げます。

他方で、世界における日本社会の男女平等度の評価基準とされる世界経済フォーラム(WEF)の「ジェ ンダー・ギャップ指数」を見ると、その低さのみならず、年々順位が下がっていっている現状に唖然とせ ざるを得ません。

日本の「ジェンダー・ギャップ指数」は、2015 年 101 位、2016 年 111 位、2017 年 144 か国中 114 位 と毎年順位を落としています。後ろにはあと 30 か国しか存在しません(内閣男女共同参画局、共同参画2018 年 1 月)。この調子で 2 年に 13 ずつ順位を落とすと、6 年でボトムに達します。

WEF のジェンダー・ギャップ指数は経済、教育、政治、健康の 4 分野で分析しランク化しています。日 本は健康が 1 位、教育の識字率も 1 位にもかかわらず高等教育の進学率が 101 位。政治は 123 位と前年比20 位も下がりボトムに近い状況です。 経済は 114 位とやはり専門職が少なく、依然政治経済が最下位に 近く全体を引き下げています。政治経済における女性の地位と環境の大幅な改善が求められます。

アイスランド、ノルウェー、フィンランドがトップ 3 を占めている背景には、教育、健康とともに、国 会・地方議員へ 4 割~5 割の進出度、経済分野における専門職登用や福祉の充実などがあげられ、それらが 安定的な世界トップを誇る原因であるといえます。

しかし学術会議や官公庁などのレベルでは今や 2020 年までに管理職の女性割合を 3 割にするという目標 がほぼ達成されつつあるものの、2018 年の総選挙の結果、安倍内閣における女性閣僚は 20 名中 1 名、国 会議員における女性の数は、2017 年で 47 名、ようやく 10.1%であり、欧州 3~4 割台にははるかに及びま せん。何が女性の政治経済進出を妨げているのでしょうか。パワハラ、セクハラも日常的で、男性のハラ スメントを擁護する文化もなかなかなくなりません。

過去のデータを見ると平成 12 年 7 月で衆議院定数 480 名中女性は 35 名(7.3%)、平成 13 年 8 月で参議 院定数247名中女性は38名(15.4%) です。衆議院ではそれ以前、実に50年間にわたり1~2%台を推移し てきました。女性が議員になれない背景には議員立候補の際の拠出金の多さや、当選時ではなく立候補時に職をやめねばならない、夜の接待や地方回りなど、女性に限らず一般市民が出にくい構図、世襲議員に 有利な現行制度があり容易に改革は行われません。これらを変えない限り新興国・後発国にも追い越され ていく日本政治の古さと大きく関連しているといえます。

 他方でボトムにおける女性も、『学術の動向』(2018.11)に書いたように、年収 200 万円以下の多くが女 性であり、子供を抱えるシングルマザーの 6 割が月収 10 万円未満、大学院卒・博士号取得者の 25%以上、 大学非常勤講師の 68%が 200 万円以下、56%が 150 万円以下、うち女性の占める割合は非常勤講師(アン ケート)では 54%(緊急!非常勤講師アンケート結果)という数字が出ています。

課題は山積みですが、学術会議における会員 68 名、連携会員 541 名とも連携しながら、女性研究者の環 境改善に関する地道な活動を、皆様とともに継続していきたいと考えております。

2019 年 1 月の総会では、ニューズレターにありますように、大学教員の過半数を占める大学の非常勤講 師の大変な実態、2018 年に世界でも問題となった性暴力対策の法制化などについて、現状と改革の方向性 を報告していただきます。国連の SDGs(誰一人取り残されない)に倣い、地道な改善活動を社会のため に、女性研究者のために、積み重ねていきたいと存じます。

皆様のご協力を是非よろしくお願いいたします。

羽場久美子

「緊急! 非常勤講師アンケート」の分析についてのご報告と展望

 2017 年末から 2018 年にかけて、非常勤講師のアンケートを、 JAICOWS と日本学術会議、首都圏大学 非常勤講師組合、関西圏大学非常勤講師組合のご協力によってほぼ 3 か月で 700 名余の方々から実施して いただくことができました。2018 年 6 月のニューズレターで、簡単に概要のみ報告させていただきました。

現在女性の補助研究職が大変な状況になっていることは、2018 年 11 月の『学術の動向』にも、「『学術 支援研究職』の現状と課題―ジェンダー視点からの検討―」として、海妻径子・大沢真理、河野銀子、宮 浦千里、羽場久美子、廣森直子、清末愛砂らが執筆しているので、是非お読みください(特に河野銀子「女 性研究者はどこにいるのか―アカデミアのジェンダー構造を探る―」。羽場久美子「女性研究者の貧困をど う解決するのか?―博士号取得者、非常勤講師―」)。

今後も、アンケート結果の性別、年齢層別、専門分野別などの分析をできる限り進めたいと考えており ます。また、その結果をも踏まえつつ、専門・教授職、学長・管理職等への女性研究者の増大、女性研究 者の環境改善、また非常勤講師を含む非常勤女性研究者の環境改善や、若手研究者の研究条件改善に取り 組んでまいりたいと存じます。

先人の方々の叡智とご尽力に倣い、女性研究者の置かれている状況の調査、報告、改善を、シンポジウ ムや、アンケート、またその成果を、新聞記事による報道や、ブックレット、一般書の刊行などにより、 公表、政策化していきたいと考えております。また広く、女性研究者および非常勤研究者の研究条件の改 善を促していきたいと考えております。

会員の皆様からのご要望、ご意見もぜひお寄せいただきたく、総会や研究会、シンポジウムへのご出席 を、どうぞよろしくお願いいたします。

羽場久美子

2018年度の企画につきまして

今回、日本学術会議24期において、会員の33%が女性、また連携会員の28.8%が女性という状況を心よりうれしく思いますとともに、学術会議の皆さまおよびJAICOWS会員の皆さま方に、それぞれの場でぜひ女性やマイノリティの状況改善のために尽力していただきたい、また学術会議の発展をリードしていっていただきたいと存じます。

JAICOWSとしてもできるだけ学術会議で急速に増加した女性会員、女性連携会員の皆さま方と積極的に交流の場を設けつつ、要望や悩みを聴き、要望に即した活動を行って行きたいと思っております。ぜひ多くの方にJAICOWSを知っていただき、入っていただき、ともに学術会議、学協会、会員や連携会員の環境を改善すべく活動して行きたいと思っております。これからも皆様のご要望を一つ一つ実現する努力を継続していきたく、どうぞよろしくお願いいたします。

昨年、学術会議の社会学委員会のジェンダー分科会では「学術の再生産が危ない!」という企画が海妻先生を中心に企画されました。法学委員会でもジェンダーの重要会合が開かれております。JAICOWSと致しましても、会員や学術会議会員・連携会員の環境改善に加え、日本のジェンダー格差を下方に抑えている重要な問題として、1万人のポスドクに職がないという状況をふまえた院生・ポスト院生の研究環境の改善や、女性が極めて多い非常勤講師、とりわけ近年導入された労働契約法の改正と英語のセンター入試の変化に伴う、非常勤講師の職の不安定化と大量解雇の危険性という問題と環境改善にも、積極的に取り組んでいきたいと思っております。

今回、JAICOWS会員の皆さまにはインターネットで、学術会議会員と連携会員の皆さまには紙ベースとインターネットの双方から、非常勤の方のアンケートを実施いたします。お忙しい時期とは存じますが、ご協力をぜひどうぞよろしくお願いいたします。

また皆さまのご要望を集めたいと存じております。

皆様から、改善してほしい、取り上げてほしい要望があれば、是非出していただきたく、どうぞよろしくお願いいたします。可能な限り改善すべく努力してまいりたいと存じます。JAICOWSの先達の方々は、学術会議に女子トイレもないところから一つ一つ身近な問題を含め改善を重ねてきました。皆様のご要望が活動のエネルギーになります。ぜひ小さなことでもご要望をお寄せいただけましたら幸いです。

封書では下記のワールドプランニングWPのJAICOWS宛、メイルでは役員のどなたにでもご意見をいただければと存じます。どうぞよろしくお願いいたします。ご協力ありがとうございます。

新しく日本学術会議の女性会員、女性連携会員になられた方々にも、ぜひJAICOWSにご参加いただき、ご一緒に女性研究者の環境改善のために活動していきたいと考えております。何より、困ったこと改善してほしいことなどおありでしたら、お知らせください。

皆様にとって素晴らしいまた幸せな2018年となりますよう、心よりお祈りいたします。

羽場久美子

今後の活動に関するJAICOWS会長からの提案

今後の活動に関するJAICOWS会長からの提案

女性科学研究者の改善に向けて、特に若手研究者、非常勤研究者の地位の改善に向けて、今回2つのご提案・ご連絡をさせていただきたいと存じます。

1<「学術の再生産」が危ない!>シンポジウム、2017年9月18日(月:敬老の日)

青山学院大学総研ビル12階、大会議室 13:00-16:30

一つ目は、女性研究者の非正規化の現状と、その非正規化の問題点を問うシンポジウムのご案内です。今、研究者、学芸員、司書、非常勤講師など、学術関連専門職の非正規化が進んでいます。こうした専門職の方々の待遇改善なしに、『学術の再生産』は可能なのか?!それを問うシンポジウムが、学術会議の社会学委員会ジェンダー分科会の主催で開かれ、JAICOWSも協力参加させていただきます。

プログラムは以下の通りです。(ポスター参照)

13:00~13:10  海妻径子(岩手大学):趣旨説明

13:10~15:00 報告

河野銀子(山形大学/日本学術会議社会学委員会ジェンダー分科会会員):

女性研究者はどこにいるのかージェンダー統計の現状と限界を探る

廣森直子(青森県立保健大学):非正規化のすすむ図書館職場で専門性は保てるか

ー専門職の非正規化が女性によって受け入れられている現状を考える

清末愛砂(室蘭工業大学):

「女性研究者支援」事業は誰のためにあるのかー研究者の消費と搾取構造を考える

羽場久美子(青山学院大学/日本学術会議会員、JAICOWS(女性科学研究者の環境改善に関する懇談会)会長:女性研究者の貧困をどう解決するか?

15:15~16:30 質疑応答・討論

現在、シングルマザーや子供の貧困が問われる中、何より女性研究者の貧困と不安定化が、学術の再生産を危うくしている!という点に警鐘を鳴らしていきたいというシンポです。

敬老の日です。ぜひ多くの方のご参加およびフロアからの積極的なご発言、ご提言を、どうぞよろしくお願いいたします!ありがとうございます。

2<国際ジェンダーの会のさまざまな試み>

二つ目は、国際ジェンダーの会の報告によって、日本でも、PhD論文のAwardや女性研究者の著書へのAwardまた若手女性研究者に対して学会の機関を通じて、論文の書き方、大学就職のKnow How、女性研究者故の問題や悩みへの対処などサポート体制の試みがなされていけばよいのではないか、という情報共有のご提案です。

現在、アメリカに本部のある7000人を超えるメンバーを数える世界国際関係学会(ISA)の副会長(2016-17)を務めており、その中のWomen’s Caucusの執行委員をしております。Women’s Caucus International Studies(WCIS)では、毎年、世界中の女性研究者のPhD論文(英語)、およびジェンダー研究の著書(英語)でその年最高の成果を決定しAwardを授けるシステムを取っており、毎年執行委員は夏に大量の論文・著書を読み、その年最高のPhD論文、ないし著書を書いた女性研究者を選び、賞を与えて優れた研究を称え、奨励しています。また昨年から学会の際に、通常の分科会とは別にTown Hall Meetingを開き、集まった女性の若手研究者に対して、PhD論文の書き方、大学で職を得るために、学会報告の仕方、などを執行委員と有志によりラウンドテーブル形式で共同ディスカッションする場を設けて成功しており、特に若手女性研究者に大変感謝されています。今年は年次大会の2月にワシントン郊外のバルティモアで、その後6月にはISAの香港大会で、同様の会合を開き、評価を得ました。

特に香港ではアジアで国際政治を学ぶ女性PhD研究者に対して、PhD取得後の大学での就職について、アジアの女性国際政治研究者のネットワーク形成について、女性研究者の地位の向上について相互にディスカッションし大変有益でした。帰国してからもメールで相談を受けています。

日本でも、女性研究者に特化したPhD論文や著書のAward,また若手女性研究者の育成のため、問題点を集め解決に向け支援するような体制を、各学会の中で作っていければ、孤立しがちな女性研究者にとって力になるのでは、と思い情報を共有させていただきました。女性研究者、中でも若手研究者は現在でもなかなか正規の職を得るのが困難であり、また任期付きの職が特に若手の間で、准教授さらに教授職にまで広がりつつあります。後人を育成していくという点でも、また、非正規に苦しむ女性研究者が増えているという点でも、JAICOWSもこのような問題にも取り組んでいきたいと思っております。

ぜひ皆様のご協力とご理解をお願いいたします。

皆様どうぞ充実した夏をお過ごしください。

JAICOWS会長 羽場 久美子

会長からのメッセージ

JAICOWS 新会長就任のメッセージ

羽場 久美子
(日本学術会議第19期研連委員・連携会員、20期・21期連携会員、22期・23期第1部会員、青山学院大学教授、世界国際関係学会(ISA)副会長)

皆様

日本学術会議で、女性一人の時期から活躍されてきた多くの先達たち、島田淳子先生、一番ケ瀬康子先生、安川悦子先生、原ひろ子先生、また役員を引き継いでこられた多くの先生方の素晴らしい献身的活動に、深い敬意を表します。そうした先輩たちの文字通り「女性科学研究者の環境改善」の努力を通して、私たちの現在があるという感謝と、その利他的な素晴らしいご尽力を引き継いでいくことの荷の重さに心を引き締めております。

他方で、現在、ジェンダー研究は、グローバル化の社会においても、また日本の政策目標としても、最も重要な課題の一つとなっており、あらゆるジェンダー研究の第一人者の方々が、それぞれ第一線で活躍されておられるために、御忙しすぎてなかなか役員をお引き受けいただけず、私のような若輩者が、不十分ながら任を任されました事、恐縮に存じます。とともに、諸先生方の御教授とご協力を得ながら、学術会議における女性研究者が、会員で23.3%、連携会員で22.3%という時代に、量的に増大したのみならず、如何に質的にも高めていけるのか、どのような環境整備が求められているのかを、あらためて考え直す機会としたいと思います。

歴史

「女性科学研究者の環境改善に関する懇談会JAICOWS」の発足については、JAICOWS設立の趣旨や原前会長のメッセージにも書かれておりますように、日本学術会議第15期に4名の女性会員の下、「女性科学研究者の環境改善の緊急性についての提言(声明)」が採択されたものの、16期には会員が島田淳子先生お一人になり、そうした中で、日本学術会議の「外側で活動するNGO」として、一番ケ瀬康子元会員を第1代会長(16期;1994-1997)として発足した、とあります。その後、第2代安川悦子会長(17期:1997-2000)、島田淳子会長(18期:2000-2003)、原ひろ子会長(19-22期;2003-2015)を中心として積極的な環境改善の活動がなされ、今年2015年1月より羽場久美子(23期:2015- )に引き継がれました。

課題

この10年間で、女性研究者、あるいは女性を取り巻く社会環境は大きく変化しました。これまでの学術会議における女性比率16期0.5% から19期6.2%という状況の中、錚々たる方々の献身的な研究環境改善努力という状況とは大きく異なり、丁度私が入りました19期から20期に掛けて、女性比率は飛躍的に改善し、20期42名:20.0%、21期43名:20.5%、22期49名:23.3%と、大きな転換がありました。23期は49名:23.3%で横ばいです。

旧来の学会からの選出(私は当初国際政治学会から選出されました)に代わって個人選出となり、1)女性、2)地方、3)若手、という努力目標の下、これまでの大都市中心の60-70代の重鎮研究者による学術会議(そして陳情型の会議)から、女性、地方研究者、若手が大幅に拡充され、また小泉内閣の下で、総理府から内閣府に移行されて、政策立案型のより機動的な学術会議へと変化していきました。

他方で、世界における女性の地位向上やジェンダー研究の進展に比べて、内実としての日本の女性の地位(特にエンパワーメント)はなかなか上がらない。2013年10月末のダボス会議を主催する世界経済フォーラム(WEF)に寄れば、「世界136カ国を対象に、男女平等の達成レベルを経済、政治、健康、教育の4分野から評価した「国際男女格差レポート2013」の発表で、日本は2012年から順位を4つ下げ、136カ国中105位」となりました(朝日新聞)。先進国のみならず中堅国途上国と比較しても低いとみなされる日本女性の地位の改善のために何をしていくべきかが問われている時期に来ていると言えます。(原因も様々です。働かずして自宅にいられる主婦願望が日本の上流・中産層の目標であるとか、子育て3歳神話、さらに政治など公の主導権は男性に任せようとする文化など、様々な日本独特の歴史や文化慣習も関係しているのかもしれません)

現在、学術会議の女性会員数は23.3%(49名)と横ばい、連携会員は22,3%(420名)と微増ですが、今期の改選人数の女性比率が高かったため、次回2017年の改選時に今回とほぼ同様の比率で選出すれば、30%を超える可能性もあるとされ、2020年までに3割、という目標はほぼ達成できる可能性が高まっています。

21世紀の女性研究者と女性をめぐる社会状況

他方で、女性会員、連携会員が増えたことが女性の研究状況に繋がっているかと言えば、各大学や研究所などそれぞれの職場において重要な役職についている女性幹部は必ずしも多くありません。また日本の女性の地位がなかなか上がらないことに象徴されるように、国会議員や地方議員など政策決定に関わる部門にも女性は必ずしも多くありません。さらに、アカハラ、パワハラ、セクハラと言われるような様々なハラスメントが、女性に限らず、研究教育機関でも横行している現状があります。

今後は、「男女共同参画」と言う状況の下で、社会のリーダーとなっていく女性たちの地位を保証していくとともに、移民の半分が女性でトラフィッキング(人身売買)など非合法な活動にも引き込まれていること、ワーキング・プアの多くが、若者のみならずシングルマザーに象徴される女性たち、子供の貧困の進行と呼ばれるような、社会の底辺で苦しんでいる女性や子供たちにも光を当て、注意を向けていく必要があると思われます。

課題はますます拡大していますが、23期は、会員23.3%、連携会員22.3%、49+420名の女性たち、および学術会議全体の構成員とも連携しつつ、男女ともに住みよい社会、研究を発展させていける環境を整備すべく、微力ながら努力を重ねたいと思います。

23期の努力目標・達成目標

私自身は、24期には、会長を次の方に引き継ぎ、さらに活性化を図りたいと思っておりますので、その時までの努力目標・達成目標を、次の3点としたいと思います。

1)  JAICOWS会員を現在の90名から、100名以上、可能なら150名を目標とし、できるだけ、現会員・連携会員から積極的に会員になっていただく。その多くの方々が、積極的に関わっていけるような、夢と目標のある活動を目指す。

2)  学術会議の会員、連携会員にアンケートをとり、職場、研究教育活動、生活における困難な事項を出していただく。それらの集計を取り、新しい時代における環境改善のあり方を目指す。

3)  できるだけ、分野ごとに複数名の会員参加を目指し、年2回ほどの研究会を重ねることにより、現在の研究課題と今後の方向性を確認する。現在、分野別委員会ごとに数名-10数名の研究者がいる状況の下では、研究条件改善および研究分野の発展に際しての獲得目標も異なってきていると思われますので、場合によっては、役員の中に、人文社会・自然科学の分野わけに加えて、分野別委員会ごとに一人ずつ程度の会員・連携会員が入ってくることにより、現状の改革目標が把握しやすくなるのではないかと思います。

これらの活動の中で、次期会長になって下さる方を養成し、24期には滞りなく委譲することを目標とします。

会長に就任させていただいての、現状認識と努力目標ですが、以上のような努力・達成目標を掲げて、ぜひ、皆様とともに、皆様の研究教育生活条件改善のために、活動していきたいと存じます。

皆様、

皆様の課題と目標を持ち寄って、ぜひ、日本学術会議、各職場、そして日本の女性環境を改善していくことにお力をお貸しいただきたく、御教授・ご協力・御教導の程、どうぞよろしくお願いいたします。

原ひろ子前会長(現顧問)からのメッセージ(2015. 5. 5)

羽場久美子・新会長のメッセージにありますように、平成6年(1994)5月26日開催の第15期の日 本学術会議(SCJ)第118回総会で、「女性科学研究者の環境改善の緊急性について(声明)」が採択され、当時の新聞にも、大きく報道されました。その当時、4名の女性会員がおられたのですが、第16期には、第6部(農学)の中の「家政学」研連の島田淳子先生(お茶の水女子大)おひとりのみが選出されました。当時のSCJ会員の選出は、現行とは異なり、7つあった部の中の各研連に所属する諸学会から推薦される研究者について研連ごとに投票が行われておりました。

平成6年夏に発足した第16期SCJでは、島田先生に多様な重要任務を与え、女性会員の存在を新聞などでアピールしようとしておりました。 第13-15期の会員でいらした、一番ケ瀬康子先生(社会福祉学、日本女子大)が、近隣にあるお茶の水女子大に勤務していた原ひろ子(16期第1部文化人類学研連委員)のところにおいでになり、「JAICOWSを結成して、島田先生をサポートすると同時に、長期的に日本学術会議、ひいては日本社会全体における女性研究者の地位向上に尽力しましょう」と、おっしゃいました。

そこで、1994年12月19日に発起人会、1995年1月5日に第1回総会(設立総会)が開催され、SCJ前・現会員/研連委員有志で、JAICOWSが発足しました。

日本学術会議の図書室で、以下の本を、パラパラとめくって頂ければと存じます。

1)JAICOWS編 『女性科学研究者の可能性をさぐる』 (1996) ドメス出版

2)学術会議叢書3 『男女共同参画社会: キーワードはジェンダー』(2001)
編集協力:日本学術会議事務局;編集・発行 (財)日本学術協力財団

3)原 ひろ子、蓮見音彦、池内 了、柏木恵子編
『ジェンダー問題と学術研究』 (2004) ドメス出版

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