研究所の趣旨と方針

(1)本研究の背景

本エラスムスムンドゥスの資金は、欧州連合(EU)本部より、EUと世界を結び研究と教育を深めるという観点から、2013年以来の欧州4か国(スペイン、イタリア、フランス、オーストリア)アジア3カ国(日本、タイ、ベトナム)による共同研究資金として与えられた。プロジェクトに協力した大学院生のコンクール最優秀賞を獲得した院生は、最も行きたい国への派遣というご褒美に、日本と青山学院大学を選んでくれた。エラスムス共同研究への感謝と敬意の気持ちも込めて、EUの紛争から和解への努力、ナショナリズムやポピュリズムの克服、格差や排除が広がる中での地域共同と和解・包摂の重要性をコロナの広がりの中でも実行しようとする姿勢から、紛争解決の方法を学び、紛争と不安定化が進むアジアにも教訓化したいと考えた。科研基盤Aについて2年間にわたりA評価を受けながら今年勝ち取ることができなかった、紛争解決と和解・包摂に向けての研究を、エラスムスの資金援助によって実現できることに対しても心からの感謝をささげたい。

(2)研究目的および本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか

本研究の目的と達成課題は、紛争と対立のメカニズムの検討、特にイギリスのEU離脱やナショナリズムの広がり、移民や経済競争による格差の拡大、マイノリティや異民族に対する排除の現実に対して、EUが第二次世界大戦後、また冷戦終焉後21世紀の30年間にわたって、たゆまず努力してきた地域共同、和解と格差是正、マイノリティや弱者の包摂の論理(これらは国連のSDGsにもつながる)の実態を分析することにより、紛争解決の政策化の過程を抽出し、普遍化し、他国の紛争や格差・排除解決につなげることである。

またエラスムスでも行ったように、欧州とアジアの地域共同により、互いの差異や問題の背景の違い、問題解決のあり方の違いを比較検討することで、他地域に欧州の教訓を実行する際の壁を乗り越え、普遍化・具体化することを目指す。EUの様々な政策の試みは現実には歴史の中に埋もれているものも多いが、イギリスのEU離脱、移民難民問題、エネルギー問題、アメリカの地政学的な対欧州政策の観点からの紛争対立の恒常化に対して、EUが自国ないし近隣諸国の問題としてどう対処してきたか、あるいは人の移動に伴うトラフィッキング(人身売買)の問題など個別の事象に対してどう対応してきたか、など具体的な問題解決の過程を若手研究者たちとの共同により洗い出し、普遍化することができると考える。