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  ヨーロッパ研究所の活動

 ・2005年度の活動

04月23日(日)第01回研究会

宮島喬氏
  「欧州統合と移民問題」
Silviu Jora 氏
  The EU Neighborhood policy and the characteristics of
  the Black Sea Area−Regionalism and Nationalism
  in Southern Europe

 ・法政大学市ヶ谷キャンパス ボワソナードタワー


宮島喬氏

「欧州統合と移民問題」

<要旨>

西欧における移民受け入れ・統合政策の三つのパターン、および収斂?
―統合型、多文化型、コーポラティズム型―

 本報告では、西欧社会における移民受け入れが、三つのパターンによる形態から、そのいずれでもない一つの形態に収斂しつつあるのではないかという見解を提示している。

 まずこの問題を語る上で、移民問題をめぐる与件の変化を指摘する。それは移民の定住化、すなわち第2世、第3世の「国民」化にともなう出生地主義の導入の不可避性。脱工業化による労働人口の女性化。労働組合の組織率および機能の低下。ポストコロニアル的政策の終焉である。これを踏まえ具体的に問題を扱う。

 統合型のフランスでは、「フランス型エガリテ」から「ポジティブ・アクション」へと変化を指摘する。
 「フランス型エガリテ」とは、平等の「共和国モデル」として知られる。それは法の前での平等の下、すべての者が個人として、一切の集合的所属に関わりなく、等しく権利を認められることである。このことは同時に反コミュニタリスム、マイノリティの認知の拒否を意味する。
 この共和国的な統合のロジックにしたがっても、社会的・経済的平等が保証されない状況に対して、移民第2世代の不満が爆発する。こうしてエガリテ至上主義からエキテへの配慮が試みられる。それは差別是正措置としての「優先教育地域」(ZEP)などの制度化が上げられる。Noirielは「過去20年間の『統合』をめぐる議論は、差別の社会科学的次元を軽視するという点で、不毛だった」としている。こうした中でアングロ=サクソン・モデルへの関心が払われ、フランス型のポジティブ・アクションが行われる。
 フランス型のポジティブ・アクションには以下のような特徴がある。コミュニタリスムへの懸念から人種や民族や性別などの集団(group)を無視する政策。宗教や文化といったアイデンティティを中心的対象としない社会的政策であること。そして、市場メカニズムを利用しないことである。

 イギリスやオランダでは多文化主義から統合へという変化が生じている。
 イギリスでは、移民のポストコロニアル的な受け入れ方式に終止符が打たれ、1981年の英国籍法改正により英臣民の地位が廃止され、さらに英領市民(BDTC)、英海外市民(BOC)のビザ無し入国も不可能となった。一方で高熟練・専門職移民と EU市民を優先的に受け入れている。
 マイノリティを配慮した多文化教育から中核科目(英語・算数・科学)の重視を目指すナショナル・カリキュラムがつくられる。オランダでは「オランダ語教育優位」を鮮明にし、文化的統合を重視している。
 これらは「多文化社会」から平等・反レイシズムへのシフトである。反レイシズムは多文化主義とは相容れないものではないが、マイノリティの国語の完全習得、機会の利用、競争参加を重視する傾向がある。
 また、1998年以降の労働党政府によるムスリム・スクールへの公費認可といった「上から」の働きかけや、EU統合による反レイシズム路線も影響している(EUの反レイシズム路線も反コミュニタリスム的性格が強い)。
 
 コーポラティズム型は、移民政策において議会よりも政府・労働者・使用者の交渉が大きな影響力を持つケースを指す。労使協議制や共同決定の伝統ある社会民主主義の影響の強い国で発達し、労組が統一、単一化が進んでいることも条件となる。スウェーデン、オーストリア、ドイツがこれにあたる。
 たとえばドイツでは以下のような機能を果たす。国内労働市場の保護、外国人労働者の平等・同一の権利と待遇の保障、労組を通じての外国人・移民の保護と社会化である。
 しかしながら労組の弱体化と機能低下が進んでいる。この要因とされるのは、脱工業化・サービス経済化、女性就労者の比較増大、インフォーマル雇用の増加、失業率の増大(若年者、移民第2世)である。
 フランスでは移民の適応援助組織としての労組の弱体化が、移民の孤立化として受け止められ、”郊外の若者”問題とも関連付けられている。これを補完するものとしてNGO、NPO、様々なアソシエーションへの期待がある、また一方で民族コミュニティの台頭を促すことへの懸念も生じている。

 このように西欧主要国において、移民の存在形態、実体、問題の所在が類似してきている。これと同時に各国の総合政策において共通性も生まれている。それは出生地主義、権利帰化、重国籍、反差別、欧州人権条約準拠である。
 「多文化」や「統合」それ自体を目的化する議論は支持されがたくなり、反差別、反レイシズムが中心的な課題とされる。またコーポラティズムの後退がもたらした空白は大きい。
 一方でアムステルダム条約により移民に関わる政策は欧州委員会事項になり、それは第3国出身者の平等な扱いに関する2003年11月指令などで表れている。しかしながら拘束力を欠き、当面EUの関与は司法機能(EU裁判所、欧州人権裁判所)に限られる。
 さらに各国社会に目を移すと、イギリスやオランダでは難民が増加し、フランスでは移民子弟による”暴動”により世論が硬化。このような状況では移民の地位改善施策は生じがたい。またポーランドからイギリスやアイルランドへの移民に見られるような、EUの拡大によるEU域内での移動の再活性化の兆しもある。

(事務局)


Silviu Jora 氏
  The EU Neighborhood policy and the characteristics of
  the Black Sea Area−Regionalism and Nationalism
  in Southern Europe

<報告要約>


1.イントロダクション
 この報告では、EUが、「広大な近隣地域」の「ヨーロッパ化」、という目標を追求する際に、どの程度、首尾一貫したアクターであったのか、調査する。そして、現実の「黒海」の地域的諸要素を述べていく。

2.「ヨーロッパ化」の概念と機能 
 ヨーロッパ化では、「条件設定」が最も重要であることが判明した。EUの「条件設定」は、民主主義と市場経済に向けた移行が進むなかで、重大な機能を演じた。ブルガリアとルーマニアの事例は、EUの政治的「条件設定」が非常に現実的であった二つの事例として要約され得る。今のトルコの「ヨーロッパ化」は、ヨーロッパの最前線の最も劇的な動きである。トルコに候補国の地位を認めた1999年のヘルシンキ・ヨーロッパ・サミットの決定は、欧米基準の民主化を達成しなければならない、という制約のために、トルコの国内変化にとっては、触媒として作用した。さらに、西バルカンの潜在的候補国のうちの二つ、セルビア・モンテネグロとボスニア・ヘルツェゴビナの事例は、民主化と経済的現代化に加えて、国家建設を目指したEUの条件設定の事例である。このようにして、加盟への期待が、EUの最も強力な対外政策の手段を構成した。

3.「拡大ヨーロッパ」とは何か?「隣国」とはどこか?
 EUは、15から25カ国への拡大が確かになるとすぐに、新しい近隣諸国政策を発展させることを開始した。このようにして、2002年頃に、ブリュッセルの語彙のなかで、ひとまとまりの新しい専門用語が現れた。すなわち、「Wider Europe」、「Proximity Policy」、「Neighborhood Policy」である。
 初めのうちは、新しい政策は、将来のEU27(EU25とルーマニアとブルガリア)の三つの北の隣国だけを対象とすることを意味した。すなわち、ウクライナ、モルドバ、そしてベラルーシである。しかし、後に、2003年3月と2004年5月に公表された政策において、イニシアチブの地域的対象は、漸次、拡大した。タイトルの「Wider Europe」は、「欧州近隣諸国政策」(ENP)の利益になるように放棄された。
 加入交渉プロセスのように、ENPは、本来は、バイラテラルであり、個々の提携諸国の願望と潜在能力に従って、区別されることになっていた。欧州委員会がENPを計画することを委任された時、欧州委員会は、加盟モデルに基礎を置いた計画を作り出した。
 しかしながら、拡大との比較において、EUの「新しい近隣諸国政策」は、その提携諸国の「ヨーロッパ化」を始める上で、よりあいまいな試みである。近隣諸国に対して影響力を及ぼすEUの力は、メンバーシップの願望をもつヨーロッパ諸国にとっては、明らかに、最も強力である。そして、ウクライナやモルドバ、同様にグルジアやアルメニアは、この文脈に、よく一致するかもしれない。
 しかし、欧州委員会の近隣諸国政策の有効性は、提供できる刺激の本質を考えると、深刻に、疑われる。すなわち、加盟という「金のニンジン」は、明らかに、皿から紛失しているのである。

4.欧州近隣諸国政策(ENP)の弱さ
 拡大との比較において、ENPアプローチは、ブリュッセルが今まで提供することができた「ニンジン」すなわち統合を排除しているけれども、数多くの「茎」から成り立っている。要約すれば、EUが、近隣諸国に対して、メンバーシップについて話す時、EUは、必要条件を定め、重要な刺激を提供する。ブリュッセルが近隣諸国に対して、パートナーシップについて話す時、それは排他的であり、そしてしばしば、「ヨーロッパ化」という(引き金)を引くことにおいて、効果がない。ENPの背後の理論的根拠は、パートナーシップ以上であり、そして、メンバーシップ以下である。そしてENPには、第五次拡大の背景にもあったような、「ヨーロッパ化」という影響力を保つ、という目標も含まれている。
 それゆえ、ENPの危険は、その多義性にある。ENPの最終目標は、混成物のままであり、そしてその政策は、潜在的に、長期間の加入前段階戦略として、さらには、パートナーシップ構想の促進としてみなされうる。ENPは、EUが、結局は立場上、否定できない何かのための一時的な代用品のように見える。このことは、EUのメンバーシップへの切望が、昨年のオレンジ革命以来、急激に増大したウクライナのような事例において明白である。何人かの分析者が、ウクライナの加盟が、長期的には避けられないことを認めているにもかかわらず、欧州委員会は、ENPの改良型に固執し続けている。
 他の欠点は、ENP全体に浸透している、隠されたユニラテラリズムである。近隣諸国と一緒に進められる政策である代わりに、ENPは、近隣諸国に向けられた政策である。それゆえに、ウクライナやモルドバのようなENPの対象のいくつかの国々が、このイニシアチブにあまり熱意を示していないのは、もっともなことだろう。

5.黒海地域主義カードの役割
 国家を越えた計画は、EUの近隣諸国戦略の欠点を補うことができるかもしれない。地域主義に固有な多様性は、結合と多様化を同時に促進する。地域主義は、社会的・政治的相互作用という変動しやすい形状に対して、合流点を提供し、参加者の様々な議事を追求するようなフォーラムを作り出し、そして、あるアクターに対しては変化を支援し、また他者の排除に対しては、それを抑止する役割を担うかもしれない。その上、地域主義は、単独主義ではない。それは、自発的にバイラテラルな、そしてまたマルチラテラルな相互作用を促進するものである。
 黒海は、今日まで、EUの周辺に位置する、見落とされてきた単なる自然の地域にすぎなかった。しかしながら、これは、ブルガリアやルーマニアの加盟によって、変化するはずである。ルーマニアは、北方ディメンションにおけるフィンランドの役割から着想を得た黒海の役割を熟慮しはじめている。そして、もし、黒海地域主義へ向けた新しい動きがはじまるのであれば、誰が外交上のイニシアチブをとり、そして、どのような組織的ルートが選択されるのか、すなわち、(1)休止状態にある黒海経済協力機構をEUからの資金の注入によって再活性化させるのか、あるいは、(2)統合された「EU黒海ディメンション(EU Black Sea Dimension)」 を生み出すのか、これから決定されなければならないであろう。

6.結論
 新しい「近隣諸国政策」を通じて、EUはその引力のような「ヨーロッパ化」の力を拡張するつもりである。しかし、メンバーシップへの展望という刺激なしで、これが機能するのかどうか、あまり確信がないように思われる。持続的な「拡大政策」への抵抗という最近の証拠を考えるならば、EUの政治的条件設定という手段の信用性は、弱まるであろう。したがって、EUは、黒海地域主義によって提供された機会を促進するべきである。さもなければ、「ヨーロッパ化」という名高い自動式引力モデルは、すぐに息切れをしてしまうかもしれない。

編集中(事務局)


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