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  ヨーロッパ研究所の活動

 ・2005年度の活動

06月25日(日)第03回研究会

福島亜紀子氏(NIRA)
  「東アジア共同体と安全保障」
鈴木佑司氏
  「アジア ASEANの地域協力と東アジア共同体」

 ・法政大学大学院 大学院棟


福島安紀子氏

「東アジア共同体構想の針路―欧州統合を参考としつつ―

<報告要約>
 福島氏による報告は、大きく二つのテーマを軸として展開された。
一点目は、「東アジア」をめぐるさまざまな枠組み、構想、争点の今日までの経緯を整理したものである。
 最初に、東アジア経済グループ(EAEG)、東アジア経済協議体(EAEC)、アジア欧州会議(ASEM)、ASEAN非公式首脳会議、ASEAN+3、東アジアサミット(EAS)のいくつかの枠組み・構想を提示された。その上で、ASEAN諸国、日本、アメリカ、中国を中心とした「東アジア」をめぐる関係各国の利害関係を、2005年の東アジアサミット開催までの政治プロセス等の具体例を提示しつつ明らかにした。この点において確認されたのは、「東アジア」をめぐる関係各国の利害関心は実に多様であり、複雑であるということである。
 しかしながら同時に、多様で複雑な利害関心が絡みつつも、平和構築、貿易、投資、金融、安全保障等の機能的協力の深化と、地域的・国際的枠組みとしての「東アジア」の定着は、結果的には「地域化(Regionalization)」「地域主義(Regionalism)」の促進と捉えることができる。特に、非伝統的安全保障(テロ、海賊、エネルギー、環境、感染症)の分野は重要な争点であり、中国をも包括する形での議論の展開は注視すべき点である。
 また他方で、日本、中国と韓国の間での歴史認識と偏狭なナショナリズムもやはり重要な争点のひとつである。この点に関しては、問題の総合的な解決(solution)を図るのではなく、利害関心を共有することでのmanageこそが有効であり、重要であるとの指摘がなされた。
 二点目は、「東アジア共同体」構想を欧州統合との比較の視点から検討するものである。この点に関しては、アジアとヨーロッパの対称的な比較にとどまらず、比較する「意義」に関してのより積極的な動機づけも同時に行われた。
 アジアとヨーロッパの相違点から確認されたのは、アジアにおいての不均衡な構成主体の存在である。さらにアジアの現状においては、ヨーロッパ的な意味での理念、価値、負担、制約を共有するような「共同体」を構想することは困難であり、今後の段階的な発展が必要であるとされた。
 しかしながらEUのような「地域統合」は困難であるものの、「東アジア」においても多様な枠組み、「地域化」と「地域主義」は定着・進展しつつある。そして、このような「プロセス」においてヨーロッパから、特に拡大EUの成果と課題から学ぶ点は多く存在し、また「東アジア」においては「プロセス」自体が評価されるべきだとの主張がなされた。
 
<参加者の議論>
1.  個人/国家/超国家というような多層構造に関する質問が出た。その上で、アジアにおける国家を超える感覚の欠如が指摘された。
 これに対し、確かにアジアにおいては依然として国家の枠組みが強い点が確認された。しかしながら、本報告においてもそのような国家レベルでの展開が中心となったものの、一方で実際的な問題としては、地域と地域、ないしは地域を跨ぐような形での「地域化」/ネットワーク形成が進展している点が強調された。

2.ヨーロッパにおいて第三の柱といわれる、警察協力等の機能的協力に関する質問が出た。
 この点に関して、まずは協力の「地域化」とネットワークの重要性が確認された。その上で、アジアにおいては海賊に関する問題が一つの争点としてあげられた。さらに、警察権という国内主権の安定的な確立と相互協力は、アジアにおいては依然として主権問題に大きく関わる点が指摘された。

3.「東アジア」におけるアメリカの政策に関して、クリントン―ブッシュ政権によるアジア政策の変化に関する質問が出た。
 これに対し、クリントン―ブッシュ政権においてアジア政策に大きな変化が見られない点と、相対的に関心が低いとの見解が出された。

4.「東アジア共同体」における他者の排除に関する質問が出た。EUにおいて非ヨーロッパを排除するような論理は、アジアにおいて存在するのだろうか。また、「東アジア共同体」は反米共同体なのだろうか。
 これに対し、通貨危機後のアジアの認識として、自律的な枠組みの必要性としての「東アジア共同体」構想の意義が強調された。さらに、反米共同体としての位置づけに関しては否定的な見解が示された。つまり、アメリカのグローバルな世界戦略の中における「東アジア」という認識の重要性を指摘し、アジアの側からも単なる反米共同体としてではなく、自律的な地域枠組みとしての必要性の観点からの位置づけが重要であるとの回答がなされた。

5. 日本の「東アジア」における、政策・取り組みに関しての質問が出た。特に、日本と中国の「東アジア」をめぐる関係に関しての見解が求められた。
 これに対し、まずは現状において日本と中国は、独自に「東アジア」政策を進めている点が確認された。「東アジア」をめぐっては、日本、中国、ASEANが相互にイニシアチブを握ろうとしている。
 よって、日本主導、中国主導といった枠組みでの多国間外交が展開されている。しかしながら、日本にとって、また「東アジア共同体」にとって重要なのは、多国間関係をベースとした協力関係とネットワークの安定的で、段階的な発展である。このような観点から捉えた場合、日本主導ないし中国主導の取り組みに対し、中国と日本が相互にエンゲージしていくことこそが重要であるとの回答がなされた。

(事務局)


鈴木佑司氏

「地域的公共圏と地球市民―東アジア共同体とNGOの役割―

<報告要約>
 鈴木氏による報告は、「地域」における下からのコミュニティ・ビルディングに焦点をあてたものである。下からのコミュニティ・ビルディングにおいて重要と思われる問題提起は、分権化、人流、問題群の三点である。
 一点目の分権化は、規制緩和時代における国家の役割の低下を背景としている。権限、収税権や予算の地方への委譲は、脱中央集権的な傾向を示しているだけではない。分権化のもう一つの側面は、さまざまな問題群に対し、より柔軟性のある対応を可能とする地域社会のグローバル化を意味する。従来のような国家主導の「地域化」「地域統合」とは逆流するような形での「地域」の形成、つまりNGOとの連携を深めながら、地域間ないし国境を跨ぐような「地域」の設定に着目する必要がある。
 また規制緩和における留意点として、代替する新たな規制の創出があげられた。つまり規制の緩和は、規制の撤廃に直結するのではないことが強調された。
 二点目の人流は、ますます流動的になる地域間での人的、物財的、文化・情報交流の常態化を象徴する点である。国内移動、国外移動、アドホックな移動と、人の流れも多様化の傾向を示している。特に、国境を越えた人の移動と地域社会間での交流は今後ますます活発になるであろう重要な点である。
 三点目の問題群は、分権化、人流と相互に関連し合う結節点である。本報告では、大きく二点の問題が取り上げられた。一点目は、人間の安全保障に関わる問題である。労働、人権、環境、食糧安全基準等の問題は、人的な交流の活性化と共にますます重要な課題として指摘される。特に、水の安全保障はこの地域にとって欠かせない争点である。二点目の大きな問題としては、少子・高齢化があげられた。日本のみならず、今後「東アジア」地域でも深刻な問題となりうる、地域的な課題である。
これらの問題群は、もはや一国がその国内において抱える問題ではない。よって国内的な対応のみならず、国家間さらには地域間でのより包括的な対応が求められる。分権化の進展は、この意味では地域社会の形成という重要な役割を担う。地域社会やNGOといった担い手の多様化は、従来の政府主導での諸政策と連動しつつ相互に進展することが望ましい。
 「東アジア共同体」とは、ひとつの大きな普遍的共同体ではなく、地域社会、NGOや市民を基盤とした多様なネットワークの上に成り立つ地域間協力と地域政策の総合であるといえる。   
本報告では、このような視点のうち進行しつつある下からのコミュニティ・ビルディングの重要性が強調された。

<参加者の議論>
1. 報告中で表現された、「帝国」的な統治の終焉とはどのような意味なのかとの質問が出た。一方で「帝国」的な語り方は、近年の趨勢であるようにも思われるが。
 これに対し、「帝国」という一元的な中央委集権的統治はアジアおよびヨーロッパでは必ずしもその状態を的確に表現しえないのではないかとの回答がなされた。そのような意味では、共同(複数)国家による「帝国」とはいえるかもしれない。しかしながら重要なのは、中央集権的ではない、異議申し立ての可能性が多元的に存在することに着目する視点である。

2. 北欧からの資金によって支えられていたアジアのNGOは、既に崩壊の危機にあるのではないかとの質問が出た。
 これに対し、確かにNGOが資金面で枯渇の危機に晒されている点が確認された。しかしながら本報告でも強調されたように、さまざまな問題への対応はもはや地方、「地域」によって担われており、このような面からもNGOのようなCSO(Civil Society Organization)の重要性は依然として重要であることが強調された。

3. 「地域化」が進展する中での社会不満や、イスラム原理主義の隆起に関しての議論がなされた。特に、インドネシアでのイスラム原理主義は農村まで広く浸透し、且つ非常に知的な運動として展開されている。この背景には教育の浸透という、ある種の逆説的な要因が大きい。イスラム原理主義の運動は、コーランを教室で読むという実に草の根的な活動から生まれている。

4. ヨーロッパとアジアの比較に関しての質問が出た。特に、ヨーロッパはInstitutionalでRegalな組織であるのに対し、アジアはどのような課題を抱えているのか。
 これに対し、アジアでは依然として強いリーダーが切望される傾向があるとされた。その上で、アジアにおける変化として二点があげられた。一点目は、リーダーが選挙で選ばれることである。国民の信託を得る必要性が認識されている点である。二点目は、三権分立への抵抗を示す政治家が減少したことである。チェック・アンド・バランスの機能が担保されている点である。

5. 「東アジア共同体」は果たして、下からの共同体の構築が可能なのかとの質問が出た。やはり、国家の担う役割は依然として大きいのではないだろうか。
 これに対し、国家の役割の重要性が再確認された。その上で、「東アジア共同体」のような構想は、EU、NAFTA、APECのようなさまざまな地域機構、地域協力の展開の上に位置づけられるべきであることが指摘された。そこでは、「地域主義」よりも「地域化」が先行し、さまざまなレベルでの問題への対応が求められている。このような問題群に対し、やはりアクターの多元化は重要であり、地域社会とNGOは今後のますます重要度を高めるであろうことが強調された。

(事務局)


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