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  ヨーロッパ研究所の活動

 ・2005年度の活動

次回研究会のお知らせ

 09月17日(日) 第5回 ヨーロッパ研究所研究会

  脇坂紀行氏(朝日新聞社)
   「ブッシュ政権とEU外交―イラク、イラン問題をめぐって」
 
  徳安彰氏
   「世界システムとヨーロッパ統合の理念」
  J?rn Keck(Former Ambassador of EC Delegation in Tokyo, Board of
   European Institute for Asian Studies, Chairman of the Strategic Task 
  Force, in Brussels)
  「The Future of EU-Japan Relations in the Light of Japanese 
  21st Century Visions and the EU Lisbon Strategy」

 ・法政大学市ヶ谷キャンパス ボワソナードタワー


脇阪紀行氏

報告タイトル:「イラク戦争後のEUの対外政策―『9・11』5年目の欧米関係」

<報告要約>

 脇阪氏による報告は、EUとアメリカの関係を、イラク戦争、イランの核問題、レバノン危機を通して考察したものである。

 イラク戦争後のEUの対外政策における基本的な潮流は、?アメリカとの同盟修復?欧州の独自性の追求、の二点に集約される。よって、本報告ではイラク戦争開戦時に見られたような、アメリカ・イギリスとフランス・ドイツというような象徴的な対立関係を前提としている。

 しかしながら、イラク戦争後の関係を見れば明らかなように、アメリカ・イギリスとフランス・ドイツといった過度な一般化は本質を捉えてはいない。本報告においてむしろ強調されるのは、欧州がアメリカとの同盟の修復を前提としながらも、欧州としての独自性をいかに構想、展開するかという点である。欧州の独自性への考察を踏まえることで、アメリカとの本質的な関係性を改めて検討することが本報告の主旨である。

 欧州の独自性の考察においては、主に「欧州安全保障戦略」が中心的に検討された。「欧州安全保障戦略」の基本的な要素としては、以下の三点が提示された。

?脅威:テロ、WMD拡散、地域紛争、破綻国家、組織犯罪。

?政策の柱:予防外交、近隣諸国政策、効果的な多国間主義。

?紛争への対応力強化:緊急対応部隊から戦闘部隊へ、治安回復で域外派遣。

 脇阪氏によれば、イラク戦争後の米欧関係は表面的には連携のとれた関係であるといえる。しかしながら、危機の認識や具体的な対応に関しては米欧間で相違が見られるとしている。特に、ヨーロッパにとって中東は歴史的、地理的にも関係の深い地域であるため、イラク、イラン、レバノンなどの諸問題においてアメリカとは異なる認識、関心が生まれる。

 例えば、イランの核問題はより総合的にはイランの体制承認の問題を孕んでいる。この点に関して、アメリカは一貫して体制承認の拒否と軍事的なオプションの可能性を固持している。しかしながら、欧州は体制を認めた上での協議を展開しようとした。つまり、欧州のアプローチとしては、対話を中心とした政策を基本としているといえる。

 イラン問題、レバノン危機などのより個別的、具体的な状況においてアメリカと欧州の間では認識、対応において相違があることが確認された。一方で、欧州の対話を中心とした独自の政策が必ずしも、成果ないし効果を生んだとはいえないことも確認された。

 今後の展望、課題として脇阪氏が提示したのは、ソラナ外交代表の役割、イギリス・ブレア政権の対EU接近政策、ブッシュ政権(特に、二期目を迎えた)の外交である。

アメリカの対中東政策を踏まえつつ、欧州の独自の視点から、当該地域ないしより広範な諸問題への政策、展望を考察することが重要である。

<参加者の議論>

1. イラク戦争後の、欧州のイニシアティヴに関しての議論が展開された。特に、イランの核危機に関しては、アメリカの軍事的な制裁措置を欧州が抑えることができるかという点おいていくつかの見解が提示された。注目すべき見解としては、IAEAのアメリカ下院レポートへの抗議があげられる。イラク戦争の経験を踏まえ、informationとevidenceの共有が重要であることが報告者によって強調された。

2. ロシアと欧州の関係におけるNATOの重要性が指摘された。欧州の独自性を追及する上で、当然アメリカ以外のアクターであるロシアとの関係は極めて重要である。1990年代からのNATOの拡大と、近年における強いロシアの台頭は、非常に注目すべき点である。特に、上海協力機構などの動きもある中で、ロシアの動向を注意深く観察する必要がある。

3. イランの核危機に関するいくつかの見解が提示された。その中では、やはり核問題を体制承認を含めたより包括的な観点から検討することが重要であることが強調された。

  また、報告者からは1997年以降のブレア政権の中東政策が重要なポイントとなりうるとの指摘がなされた。イギリスが中東地域に対し、どのような構想、政策を展開するかを注意深く観察する必要がある。

4. イランの問題を、ヨーロッパにおけるイスラームの問題として理解することが重要であるとの指摘がなされた。欧州やロシアは、内部に多くのイスラーム教徒を抱えている。このことは当然、イラン問題への外交、軍事、安全保障の問題へも大きな影響を与えているだろう。

  つまり、欧州にとって内包するイスラームの問題は、内政・社会問題という現実的な問題である。内包するイスラーム教徒に対し、慎重に対応しつつ外交を展開しているのが欧州であると理解することができる。

(事務局)


徳安彰氏

報告タイトル:「社会システム論から見たEU統合」

<報告要約>

 まず社会と社会システムについての概観を説明する。社会とは自足的で包括的なまとまりを持つ単位であり、これはしばしば国民国家として考えられてきた。社会システムは政治や経済、法など社会の中の特定の機能に関わる単位を指すものである。

 すでに述べたように国民国家の境界によって区切られた国民社会が社会の単位となっていた。これは社会の境界設定において政治的要因が優位にあったことを示し、国民国家の強力で垂直的な統合力が存在した。故に世界システムは単位として諸国民社会あるいは諸国民国家が相互に連関するシステムであった。対等な関係、あるいは不平等や従属的関係があったにせよ、のっぺりとした1つの世界ではなく、国家社会の結びつきがイメージされてきたわけである。

 グローバリゼーションの進展はこうした状況を変え、世界社会が唯一可能な社会の単位となる。これは社会の機能的分化と機能システムごとのグローバリゼーションが生じたからである。ここには世界システムはグローバル化した諸機能システムが相互連関するシステムが存在する。

 以上のような視点に立ち、EU統合を見る。EU自体は国家単位のメンバーシップで構成されるので、国境線によって地理的な範囲が規定される国家連合であっても、社会であるとはいえない。しかしながら一方で、ヨーロッパという地域的単位は、(少なくともヨーロッパ人にとっては)世界社会に近似するものと理解されてきた。

 機能的分化の問題からグローバリゼーションと地域について見ていく。近代社会の構造的特質として機能的分化の優位がある。これはかつての前近代社会における階層的分化と対応する。これは端的には中心と周縁、頂点と底辺が存在するようなヒエラルキー的構造によって成り立っている社会を示す。社会において身分的階層構造が支配的であり、そうした開港構造の頂点に存在する政治的な支配力が社会の統合力であった。

 一方で近代国家とは、中心や頂点が欠如したヘテラルキー的構造に特徴がある。政治、経済、法、経済、科学、宗教、教育芸術などの機能システムが各々異なるロジックにもって分出され、政治はなおも社会を統合するようにも見えるが、機能システムの1つとなり、社会の制御・統合力は弱まった。これの変化が各々国民社会において生じたわけである。

 さらにこれはグローバリゼーションの進展により国境を越え、国民国家は包括的な社会の境界ではなくなる。国民国家の境界はグローバルな政治システムの環節的に分化した境界となるのである。こうして国民国家は境界内の諸機能システムの垂直的な統合力を失い、グローバルな政治システムには国家以外のエージェントの参入がなされるようになる。

 しかしながらこうした機能的分化のグローバルな進展は必ずしも地域的差異の解消を意味しない。この顕著な例として、グローバルな経済システムは地域格差を拡大せしめている。

 以上を踏まえEU統合を考えると、機能システムの拡大はEUの境界を越えており、ヨーロッパにおいては加盟・非加盟のいかんを問わない広がりをみせている。こうした機能システムの通例として、政治的な境界による一種のバリアやフィルタを設けようとすることがあるが、EUは加盟国内の格差を解消する一方で対外的に境界を強化するかが問題である。

 機能システムの観点から個々の人間のアイデンティティの変化も注目する。アイデンティティは前近代社会においては、1つの階層に属し、そこに包摂されるという属性原理がはたらいていた。近代社会においては、個人は複数の機能システムに関与するが、そこには包摂されず、個人の達成によって規定される業績原理がはたらいている。これが近代的個人を成立させたわけである。

 これによって独自性や自由なアイデンティティ形成の可能性が生まれたわけであるが、属性主義的に規定されていた文化的伝統から遊離することになった。この集合的アイデンティティの文化的供給源となったのがネーションである。さらにグローバリゼーションの進行はアイデンティティのハイブリット化の可能性を示唆している。

 ここで問題となるのが文化的多元性と社会的不平等、たとえば移民2,3世やイスラム移民のにみられるような民族的・宗教的マイノリティに対する社会的差別と不平等の存在である。それに対して普遍主義と個別主義が相克する状況がある。前者は機能システムへの平等なアクセスを求め、後者は文化的な多元性と多様性を求める。グローバリゼーションは分化の均一化をもたらすのか、多元性を再編するのであろうかこれが問題である。今日、伝統的な民族文化や国民分化が流動化するなかで中止する必要がある。

 EUないしヨーロッパに目を向けると、個人のアイデンティティの分化供給源がどのようになっていくのかが重要になってくる。

<参加者の議論>

1.EUのアイデンティティが生じてくるのか?

近代的個人はどんなアイデンティティも可能であり、どこかで集合的アイデンティティに所属してしまう。今日、EUあるいはヨーロッパのアイデンティティと制度化の進展が見られる、国民国家のように。しかしながら多様性という観点から考えると、緩やかなものである必要がある。もっと小さなアイデンティティが存在するからである。とくにマイノリティにおいてはローカルな濃い形でソースが提供されているからである。

2.地域ナショナリズムの行方について

文化的差異、制度的差別にならなければ問題ないが、制度の公平性がどうなされるかが問題。

3.社会保障、教育についてのEU化が謳われないことについて

適正な規模の問題がある。ローカルな保証が人間には必要であり、一様なものをEUやヨーロッパに当てはめることは原理的にも不可能である。市民からEUへ「手の届かない感」もある。社会保障に関しては、お金の問題、すなわち徴税と財政計画が根幹にあり、国民国家がこれを継続して維持するのは困難でありそうだが、次が見えない状況にある。

(事務局)


J?rn Keck氏

Relations in the Light of Japanese 21st Century Visions and the EU Lisbon Strategy

<報告要約>

Keck氏の講演では、EU−日本関係の今後の展望について、次の三つの点から議論が進められた。(1)日本の三つのビジョン(2025−2030)の提示と、それぞれの比較検討。(2)EUリスボン戦略の検討と、EU産業政策の二つのシナリオ(成功or失敗)。(3)日本とEUとの関係(紛争or協調)とアジアとの関係。

(1)日本の三つのビジョン(2025−2030)

Keck氏が取り上げた日本の三つのビジョンは、?「日本21世紀ビジョン」(経済財政諮問会議、2005年4月)、?「活力と魅力溢れる日本をめざして」(日本経団連、2006年1月)、?「中川レポート」(経済産業省、2004年5月/2005年更新)である。

「日本21世紀ビジョン」は、構造改革を通じて日本が2030年に目指すべき三つの将来像が示されている。すなわち、開かれた文化創造国家、健康寿命80歳、豊かな「公」・小さな「官」である。さらに経済については、2021−2030年の予測として、平均1.5%の経済成長、GDP成長率2%、労働生産性2%、「輸出主導型」経済から「投資主導型」経済への転換が示されている。

これに対して日本経団連は、「2025年度までに、実質2%程度(年平均)の経済成長が可能である」と、その将来像を示している。Keck氏は、日本経団連のビジョンのなかで二つの点、すなわち、日本の技術と知識に基づいたグローバル・ルールの創造(経済政策)と、東アジア自由経済領域の確立(国際問題)が、EUとの比較の上で重要であると論じる。

中川レポートは、最先端技術の研究開発(R&D)への投資と伝統的職人技術との結合を強調しながら、新産業創造戦略・戦略7分野として、七つの点を指摘している(燃料電池、情報家電、ロボット、コンテンツ、健康福祉機器サービス、環境エネルギー機器サービス、ビジネス支援サービス)。「中川レポート」のなかに見られる「競争competitive」の考えが、EUとの比較の意味において重要であるとKeck氏は指摘した。

Keck氏によれば、これら三つのビジョンに共通して見られることは、(「日本21世紀ビジョン」は慎重に言葉を選んでいるが)、日本がアジアのなかで中心的な役割を担うことを目指している点である。

(2)EUリスボン戦略2000−2010

 EUリスボン戦略の核心部分は次の点である。「・・・より多くより良い仕事と、より強い社会的つながりを保持しながら、持続的経済成長を可能にし得る、最も競争力(competitive)があり、力強い知識基盤経済(knowledge-based economy)を、EUが作り上げること。」(EUリスボン・サミット、2000年)

 EUリスボン戦略の重要な経済目標は、GDP成長率3%、GDPの3%を研究開発(R&D)分野に投資することである。他方、問題点は、構造改革の進展の遅さ、R&Dの弱さ(アメリカや日本よりも低く、場合によっては中国に追いつかれるかもしれない)、規制緩和が進展していない、などである。リスボン戦略の最終目標は、ヨーロッパの「持続可能な発展Sustainable Development」と「ヨーロッパ型社会モデルEuropean Social Model」を可能にすることであった。

 EUリスボン戦略の背景には、改革を進めなければ、2040年までに、現在の成長率2%−2.25%が、半分(1%−1.25%)になってしまう、との危機感があった。

 EUリスボン戦略は、2005年に、EUの新産業政策(EU New Industrial Policy (2005))へと修正され、情報通信技術(ICT)、R&Dへの投資などが重要な政策課題とされた。

 Keck氏はこのような前提を論じた上で、今後のEU産業政策の展望について、?失敗と?成功の二つのシナリオを提示した。?リスボン戦略の失敗:ヨーロッパの改革が進まず、低成長が続き、資本が流出する。日米が情報産業を強化する。ヨーロッパはバイオテクノロジーならびに航空宇宙産業の分野で遅れをとる。BRICs(ブリックス)が台頭し、ヨーロッパは追いつかれる。?リスボン戦略の成功:EUは商品/労働市場の改革のおかげで、3%のGDP成長率を回復し、ICTと科学技術分野の遅れを克服する。

(3)日本とEUとの関係(紛争or協調)

 次にKeck氏は、日本(Visions)とEU(Lisbon)との関係について、?紛争要因と?協調要因の二つの側面を指摘した。?潜在的紛争要因:日本の「ビジョン」があまりにアジアに集中しており、「アジアの要塞化」を促進する可能性がある。日本の経済的リーダーシップ要求(基準(standard)設定、等)が対立を誘発する可能性がある。?潜在的協調要因:日本もEUもアジアの安定的な経済繁栄に関心がある。アジア、とくに中国に制度を構築することが安定への鍵である。EUは地域的制度構築の経験がある。EUのアジアへの「ソフト・パワー」アプローチは、アジアにおける日本の統合にとって有益であり得る。エネルギー分野と環境分野の協力は、アジアの未来にとって重要である。

 Keck氏は、EU−日本サミット(2001年、ブリュッセル)で採択された「アクション・プラン:私たちの共通の未来の形成に向けて」が、重要であると論じる。そこでは、四つの目標がまとめられている。平和と安全の促進、経済の強化と貿易上のパートナーシップ、グローバルに噴出する社会的挑戦(問題)への対応、人々と文化の接触。

まとめ

 日本経済の回復と日本の社会・文化的開放は喜ばしいことであり、アジアの政治的対話や様々な分野における協力の深化に寄与するであろう。

 とくにEU−日本の協力は、アジアにおける持続可能な開発を支援する上で、重要になるであろう。とくに、環境、社会、経済開発そして共同の社会責任の分野において。

 日本のさらなる経済開放は重要である。しかし、バイラテラリズムないしはリージョナリズム(「アジアの要塞化」)を回避するために、世界貿易機関(WTO)と調整する必要がある。

<参加者の議論>

1.       EUの産業政策が失敗した場合、その場合にBRICsに、すぐさまEUは追いつかれる、それは果たして正しいと考えられるのか?BRICsの生産能力はそれほど高いものなのか?(BRICs:ブラジルBrazil、ロシアRussia、インドIndia、中国China)

Keck:生産能力の点からは、中国とインドに可能性があり、ロシアは資源エネルギーを独占している。ブラジルは、今後、上がるか下がるか分からないが、中国の可能性は高いと考えられる。日本は中国への直接投資を増やしている。インドは社会的問題が難しく、発展に影響があるかもしれないが、「ソフト・パワー」にポテンシャルがある。これらのことから、ヨーロッパの展望は厳しい。BRICs、日本、アメリカの後に、EUがくるのではないだろうか。

2.       EUとの比較において、「Asia Union」の可能性は、どうか?

Keck:基準(standard)設定など、難しい問題があるが、可能性はあると考える。

(事務局)


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